
破損の痕跡「金継ぎ」は物語を雄弁に語る

壊れた器は単なる破損ではなく、そこからまた新たな器との付き合いが始まります。
破片や亀裂が器に残ることで、その器が経験した出来事や時間の流れがくっきりと見えるようになります。
そこには、生活の一部やそのときの記憶、感情などが刻まれ、雄弁にストーリーを語りだすのです。
破損したときこそ器がただの道具ではなく、その背後に大切な思いが潜んでいることと向き合うタイミング。
金継ぎは、この物語を紡ぎ直す手段としてとても魅力的です。
断片を結ぶ芸術金継ぎの技法

金継ぎは壊れた器を修復する日本の伝統的な技法であり「断片を結ぶ芸術」と言えます。
破損した部分に漆を塗り、金や銀、漆などの粉末を用いて断片を継ぎ合わせることで、器は新たな美しさを手に入れます。
この技法は器が持つ独自の美しさを引き立て、破損した箇所が逆にその器の特徴となるような仕上がりを生み出します。
美と不完全が共存する金継ぎの魅力

金継ぎによって修復された器というのは、「美と不完全の共存」を見事に体現します。
破損した箇所が金や銀で飾られ、独自の模様や意味を持つことで、器はこれまでの物語をさらに昇華させ、新たな姿・新たな意味を手に入れます。
一見すると壊れる前の完全さと比べると、修理されたあとの器は元に戻らず不完全である見た目に映ると感じる人も少なくはないでしょう。
しかし、その丁寧なしごとによる壊れたものを蘇らせる技術や、それに美しさを追加する日本独特の感性などを受け、逆に美しさを引き立つと見ることもできるのが金つぎの魅力です。
完璧ではないが故に生まれる、美の探求を楽しむこともできるでしょう。
愛着と再生、金継ぎがもたらす器と使い手の絆

金継ぎによって修復されることを通し、使い手との絆が更に深まる、という展開は疑いようがないものです。
破損した箇所が修復され、その器が再び器として機能することで、さらに使い続けたいという愛着などが宿って、他には替えが効かない大切なモノになることはいうまでもありません。
金継ぎがもたらす美しさと不完全さは、器が持つ歴史や思い出をより一層特別なものとして感じさせます。
金継ぎの魅力は単なる修復技法を超えて、壊れた器が新たな美しさを手に入れ、物語を紡ぎ直す芸術としても一見の価値があります。
大切な器が破損したとき、「しょうがない」と割り切ることも一つの流れですが、「これまでより、大切な存在になる」という道も残されているかもしれませんね。

この記事を書いた人
柴山甲一
酒器の案内人
バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人
柴山典子
器人(うつわびと)
静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。
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