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丁寧な暮らしができない、と思ったら立ち返りたい。「丁寧さ」とは

「丁寧じゃない」と思ってしまうとき

たとえば、朝からお弁当を手づくりして、
掃除をして、お気に入りの器で丁寧に食事をして……
そんな生活にあこがれつつ、現実は冷凍食品に頼ったり、
洗濯物が山になったりする日もあります。

ああ、今日はぜんぜん“ていねい”じゃない。
そう感じてしまうと、気持ちも後ろ向きになってしまいがちです。

でも実は、そういう日でも、静かに丁寧さが残っている瞬間はあるものです。
お気に入りのカップを選んで飲むコーヒー。
疲れて帰った誰かに「おかえり」と声をかけること。
あえて深呼吸してから返事をすること——
どれも、意識しなければ流れていってしまうようなことばかりですが、
そこにはちゃんと「丁寧さ」があるのだと思います。

丁寧さは、“静けさ”の中に宿る

ていねいな暮らしとは、
決して「時間をかけること」や「手間を惜しまないこと」だけを指すのではありません。

たとえば、器を片付けるときに、音を立てずに重ねること。
少し疲れていても、食後にテーブルを一拭きすること。
それはほんの数秒のことかもしれませんが、
心が静かになるような小さな所作に、やさしい丁寧さが宿ります。

日々の中で、そんな“心の静けさ”に立ち返る瞬間を持てると、
「できていない」と感じていた暮らしの中にも、
じつはたくさんの丁寧さが息づいていたことに気づきます。

見えづらいものに目を向けてみる

ていねいさは、目に見える「かたち」ではなく、
目には見えづらい「こころのありよう」かもしれません。

誰かの器をそっと手渡すしぐさ、
疲れている自分にあたたかいお茶をいれてあげること、
ちょっとした花を飾ってみること——
どれも、他人から見れば気づかれないようなことかもしれません。

でも、自分にとっては、そのひとつひとつが、
今日を優しく生きるための“ていねい”だったりするのです。

丁寧であろうとする気持ちを、忘れずに

できる日もあれば、できない日もある。
それでも、「ていねいでありたい」という気持ちがどこかにあるなら、
それはもう、充分にていねいな暮らしの入り口に立っているのだと思います。

時間をかけられない日こそ、
静かな瞬間に目を向ける。
そこから、自分だけのていねいさが見えてくるかもしれません。

この記事を書いた人

柴山甲一
酒器の案内人

バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人

柴山典子
器人(うつわびと)

静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。

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