
暮らしと仕事に、やさしいリズムを。所作に宿る“丁寧さ”のこと
朝、急ぎ足で家を出て、帰ってきたときにはもう暗い。
そんな日が続くと、暮らしのリズムがどこかに置き去りにされたように感じることがあります。
でも本当は、仕事と暮らしは切り離されているわけではなくて、
日々の中で交差しながら、静かに影響し合っているのだと思います。
丁寧に過ごす時間は、特別な一日のことではなく、
どんなに忙しい日にも、小さなところに息づいているのではないでしょうか。

「暮らしが乱れる」と感じた日こそ

たとえば出かける前に、湯飲みをひとつ選ぶ時間があるだけでも、
ほんの少し気持ちが整っていくように感じます。
よく使っている湯のみ。今日は違う器にしてみようか。
そんなふうに器のことを思い出すだけで、慌ただしい朝に少しだけ温度が戻ります。
丁寧に暮らす、というのは、
すべてを完璧にこなすことでも、余裕たっぷりな時間を持つことでもないのかもしれません。
どんなに忙しい日でも、所作のひとつひとつに気持ちを込めること。
その積み重ねが、暮らしを立て直してくれることもあるのです。
仕事の中にも“丁寧さ”は宿る
名刺をまっすぐ差し出す、筆記具を置く音を静かにする、
人の言葉に対して、一呼吸おいて返す。
小さな動作ややりとりの中に、丁寧さがにじむ瞬間があります。
器と同じように、道具にも居場所を与えてあげる。
そうすることで、自分の気持ちも整っていくように思います。
暮らしの中で育てた感覚は、自然と仕事の場にもにじんでいきます。
どちらかを我慢するのではなく、両方を少しずつ育てる。
そんなふうに日々を過ごせたなら、それはもう十分「丁寧な時間」と呼べるのかもしれません。

整える習慣が、自分をやさしくする

どんなに忙しくても、お気に入りの器を手に取ることはできるし、
書類をまっすぐに揃える手間を惜しまないこともできる。
それだけで、所作の意味が少し変わって見えてきます。
仕事の時間も暮らしの時間も、きちんと自分のものとして受け止めたい。
だからこそ、目の前の小さなことを「どう扱うか」を大切にしたいのです。
丁寧さは、暮らしだけに宿るものではありません。
働く時間の中にも、そっと息づいている。
そのことに気づけると、毎日が少しだけ軽やかになった気がします。

この記事を書いた人
柴山甲一
酒器の案内人
バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人
柴山典子
器人(うつわびと)
静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。