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ゆっくりと花と時間を愛でる。春を味わう酒器

はじまりは、小さな気づきから

春の気配を感じると、ふと心がほどけていきます。
風が少しだけやわらかくなり、花のつぼみがほころぶのを見るたびに、
今年もまたこの季節が巡ってきたのだと、静かに嬉しくなります。

花見と聞くと、にぎやかな宴を想像するかもしれません。
けれど、ひとりでゆっくり花を愛でながら、酒を楽しむ時間もまた、春ならではの贅沢です。

そんなひとときには、やはり酒器にこだわりたくなります。
桜色や、やわらかな白磁。
主張しすぎない淡い色合いが、そっと春の気配を連れてきてくれるように感じます。
お気に入りの器は、そこにあるだけで、空間を柔らかく変えてくれるから不思議です。

季節を味わう、器の時間

器には、使う人の気持ちが映ります。
春を感じたいと思えば、自然と選ぶ器も春めいたものになります。
手ざわり、重さ、口あたり。
使い慣れた酒器もいいのですが、その季節にぴったりのものを迎えることで、
何気ない夜が少しだけ特別になるように感じます。

桜の咲く時期にだけ使う器を一つ持っています。
毎年その器を出すたびに、「今年もまた春が来たな」と感じられるのが、嬉しい瞬間です。
器は、季節の記憶をとどめてくれる存在だと思います。

花と酒と、静かな語らい

小さな盃に酒を注ぐ音、ほのかに立ち上る香り。
ひとりで味わう時間も、誰かと語らう時間も、
酒器はその場の空気を整えてくれます。

春の花を眺めながら、言葉少なに杯を交わす。
そんな時間に似合うのは、気取らず、けれど丁寧につくられた器です。
気持ちよく手になじみ、飲み口のやわらかいものが良いと感じます。

器が変わるだけで、酒の味わいが変わることがあります。
それは、気のせいではありません。
器がつくるのは、味だけではなく、時間の質そのものだから。

器と過ごす、春のひととき

色合い、手ざわり、フォルム。
そこにあるだけで心がほどける器と出会えたら、
その日が少し特別に思えてきます。

誰かのために器を選ぶことも、
自分のためにお気に入りを迎えることも、
どちらも季節を楽しむやさしい選択です。

はじまりは、小さな気づきから

構えず、気張らず、

今日の気分に似合う器をひとつ、選んでみませんか。

それだけで、時間の流れが静かに変わっていきます。

花を見て、酒を味わう。

その傍らにある器が、春をもっと近くに感じさせてくれます。

そんな季節の楽しみ方を、大切にしたいものです。

この記事を書いた人

柴山甲一
酒器の案内人

バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人

柴山典子
器人(うつわびと)

静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。

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