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器の「高台」の意味とは。手のひらに宿る美意識

見落とされがちな“縁の下”

器を手に取るとき、つい目を向けるのは料理が盛られた側。
けれど、器をそっと裏返してみると、そこには小さな「高台」があります。
器の底にあるこの縁(ふち)は、見た目には控えめながら、実はとても重要な役割を果たしているのです。

机と器のあいだに少しだけ空間をつくることで、熱がこもるのを防ぎ、持ちやすさも生まれる。
さらに、使っていないときでも、器の輪郭を美しく見せてくれる「影」をつくることもあります。
器の高台は、まるで見えないところで食卓の空気を整えてくれているような存在です。

高台があるからこそ、美しく持てる

器の高台に触れるとき、自然と指の動きがやわらかくなります。
両手でそっと包むように持ち上げたときの感触、手のひらにすっと収まる安定感。
高台の高さや幅は器によってさまざまですが、そこには作り手の「どう持ってほしいか」という想いが宿っています。

特に和食の器では、「器を持ち上げて食べる」という所作が基本にあるからこそ、手に取ったときのバランスや、触れたときの心地よさが大切にされています。
高台は、器を美しく見せるだけでなく、使う人のふるまいまで整えてくれる、静かな導き手のような存在なのです。

裏側に、作り手のこころが映る

高台のかたちは、器の印象を決めるひとつの要素です。
丸く削り出されたもの、しっかりと高さのあるもの、釉薬がうっすら残っているもの。
どれも、それぞれの作家や窯元の個性が表れていて、じっと見ていると愛おしくなるような表情があります。

「器は裏を見れば分かる」とは、昔から言われてきた言葉。
見えにくいところにまで手をかける心遣いにこそ、本当の美しさがある――
そんな考え方は、どこか“和の美意識”とも重なります。

手のひらに触れる、小さな舞台

器の高台は、目立つわけでも派手さがあるわけでもありません。
けれど、食卓のなかで、料理と器の“舞台”をそっと支え、それを手に取る人のしぐさまで美しく導いてくれる存在です。

お気に入りの器を見つけたとき、裏側にも目を向けてみてください。
その高台には、見えない工夫や、さりげない美意識が宿っています。
器と手のひらが出会う場所にこそ、器づかいの楽しさがひっそりと潜んでいるのです。

この記事を書いた人

柴山甲一
酒器の案内人

バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人

柴山典子
器人(うつわびと)

静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。

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