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失われゆく金継ぎのある景色。「壊れても直して使う」魅力

割れた器に、もう一度光をあつめる技

金継ぎとは、割れたり欠けたりした器を漆で継ぎ、そこに金や銀などの粉をあしらって仕上げる、日本独自の修復技法です。
傷を隠すのではなく、あえて見せる。
その傷があるからこそ美しい、という価値観がそこにはあります。
完璧なものだけを求めるのではなく、壊れたあとに生まれる「景色」をも尊ぶ——金継ぎには、そんなやさしいまなざしが宿っています。

壊れてしまった“あの器”を手放せなかった理由

贈ってくれた人の表情や、そこに盛って食べた料理の記憶。
一緒に過ごした時間ごと大切に思えて、欠けてしまったけれども捨てられない……そんな器はないでしょうか。

金継ぎをすることで、その器は「壊れる前と同じもの」ではなくなります。
でも、だからこそ唯一無二の器になるのです。
そこに刻まれた時間と記憶をそのまま抱えて、もう一度手に取れる。
長年その器と連れ添ったからこそ生まれる喜びです。

傷があるから、美しいという価値観

金継ぎがほどこされた器には、独特の風景が生まれます。
割れ目のラインに沿って走る金色の軌跡は、かつての破損を物語るものではなく、その器が「ここまで歩んできた証」として映ります。

完璧さではなく、そこにある物語を美しいと感じること。
それは器に限らず、人との関係や、自分自身に対する見方にもつながっている気がします。
不完全なままでも、大切にされる。
そんな風に、暮らしの中で器が静かに語りかけてくれるのです。

継いで使うという、ていねいな時間

金継ぎを施した器は、取り扱いに少しだけ気を使います。
けれど、それがかえって「丁寧に使う」という意識につながっていきます。
壊れたから終わりではなく、直してでも使い続けたいと思える器がそばにあること。
その気持ちが、日々の景色を少しだけ豊かにしてくれるのだと思います。

継ぐことで生まれる、もうひとつの美しさ。
器の向こうにある時間や記憶ごと大切にしていく——そんな金継ぎのある暮らし方を、少しずつでも続けていけたらいいなと思います。

この記事を書いた人

柴山甲一
酒器の案内人

バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人

柴山典子
器人(うつわびと)

静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。

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