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人生の節目に新しい器を。大切な瞬間を彩る特別な一皿

別れと出会いの季節、春

卒業式や入学式、転勤や引っ越し、新しい世界へ踏み出す人たちの背中を見送りながら、
「おめでとう」と「いってらっしゃい」の気持ちを、器にそっと託したくなることがあります。
食卓に並ぶ料理と器は、その日を記憶に残す大切な風景。
だからこそ、人生の節目には、その瞬間にふさわしい一皿を選びたくなるのです。

春の門出に、器を添えて

入学や卒業の知らせが届くたびに、「今年も春が来たんだな」と感じます。
誰かの新しい始まりを祝う食卓には、ふだんより少しだけ気持ちのこもった器を選びたくなります。
淡い色合いの平皿や、凛とした佇まいの鉢。春の食材をふんわり包み込んでくれる器を並べると、
「おめでとう」の気持ちが、言葉よりもやさしく伝わるような気がするのです。

思い出に残る器のかたち

わたしの家では、お祝いのときにいつも使う器があります。
お赤飯やちらし寿司を盛るためだけに出してくる、ちょっと特別な器。
毎年何度か使ううちに、それが家族の記憶のなかにもしっかり根を張って、
「これ、あのときも使ったよね」と、ふとした会話に顔を出すようになりました。
器は食卓の景色の一部だけれど、それが記憶の中では主役になることもあるんだな、と思います。

選ぶことで、気持ちが動く

お祝いの席を用意するとき、どの器を使おうかと考える時間が好きです。
料理の色合いや盛りつけ、人数に合わせて器を並べていくうちに、
「今日はいい日になる」と、自然と思えてきます。
特別な日だからこそ、特別な器を使いたくなるのかもしれませんが、
器の力を借りて、その日を特別に“整えていく”ような感覚もあるのです。

器が記憶をとどめてくれる

春の節目に、新しい器を迎えるのもいいなと思います。
これからまた、この器で何度も祝いの席を囲むんだろうな、と想像しながら選ぶと、
その器には、未来の思い出がもうすでに宿っているような気がしてくるから不思議です。
器は、ただ料理をのせるものではなくて、
人の気持ちや時間を、そっと包んでくれる存在でもあるのだと思います。

節目の日の食卓には、そのときどきの気持ちが宿ります。
器を選ぶことで気持ちが整い、盛りつけることで想いがかたちになる。
そうして迎える門出のひとときは、記憶の中でもあたたかな光を放ち続けてくれる気がします。
新しい始まりに、ひとつの器を添える。
それだけで、その先の時間も少しだけやさしくなるような気がしているのです。

この記事を書いた人

柴山甲一
酒器の案内人

バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人

柴山典子
器人(うつわびと)

静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。

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