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多様な彩りと静けさをまとう器。福岡・上野焼の歴史と暮らしの風景

茶の湯から日常へ、400年の歴史を重ねて

福岡県で作られる上野焼(あがのやき)は、400年以上の歴史を持つ焼き物。
そのはじまりは江戸初期、小倉藩主・細川忠興が朝鮮から陶工・尊楷(そんかい)を招き、上野の地に開窯したことからとされています。
茶人に好まれ、遠州七窯のひとつとして名を馳せた上野焼は、一度は衰退するも、今では伝統的工芸品に指定され、現代の暮らしに寄り添う器として息づいています。

高温で焼かれた陶器でありながら、やわらかな土味と落ち着いた色合い。
多くの釉薬が用いられ、その表情の豊かさも魅力です。
繊細なグラデーションや釉薬のゆらぎは、一つとして同じものがなく、選ぶ楽しみもまた格別。
こうして長い歴史の中で育まれた上野焼は、今も静かにかたちを変えながら、人の手と暮らしの中に受け継がれています。

毎日の食卓で映える、美味しさの器

上野焼は「使うことで美しさが際立つ」器です。
料理の腕に自信がなくても、器の力を借りることで、不思議と盛りつけに自信が持てるようになります。
たとえば、焼いたお肉や煮物、お惣菜さえも、美味しそうに見せてくれるのが上野焼のうつわ。
それは器が料理を選ばず、素材そのものをやさしく引き立ててくれるからかもしれません。

見た目はしっかりしているのに、持つと意外なほど軽いのも嬉しいところ。
扱いやすく、普段使いにもしっくりなじむので、気づけば毎日のように手に取っている。
そんなふうに暮らしの一部になってくれる器は、使いこなすのではなく“使いながら育っていく”存在です。

気取らず、けれど凛とした存在感

上野焼には、茶陶の格式を感じさせながらも、肩ひじ張らない静けさがあります。
多彩でありながら派手すぎず、使う人の個性や食卓の雰囲気になじむやわらかさ。
日常の器としてはもちろん、贈り物や来客時にも活躍してくれる頼もしさがあります。

プロの料理人が「器の力を借りる」と言うように、見た目の美味しさには器の存在が欠かせません。
上野焼の器は、料理と時間に「感動のひとしずく」を添えてくれるような、そんな役割を果たしてくれます。

“見た目マジック”で育つ、ゆたかな時間

たとえば忙しい日、買ってきたお惣菜をそのまま食卓に出すのと、お皿に盛るのとでは、印象がまったく違います。
器に移すだけで、「食べる時間」そのものが少しだけ丁寧になり、ゆったりとした気持ちが生まれる。
そこに少しの彩りや、お気に入りの器があれば、“食べる”が“楽しむ”に変わります。

大人になっても、食育はずっと続いているのだと思います。
毎日の食事だからこそ、美味しそうに見えること、楽しんで食べること。
それが「食べることは生きること」という気持ちにつながっていく。
器ひとつで、そんな時間をつくることができるとしたら——
それはとても豊かで、静かな喜びだと思います。

この記事を書いた人

柴山甲一
酒器の案内人

バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人

柴山典子
器人(うつわびと)

静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。

この記事でふれた「ゆるやかな丁寧さ」に寄り添う器たち

——使うほどに心がほどける、“日常の相棒”をご紹介します。