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多様な彩りが特徴。上野焼の歴史に触れて

茶の湯からはじまる、静けさをまとう器

福岡県で作られ、多くの釉薬が用いられることが特徴の上野焼(あがのやき)。
上野焼の始まりは、1600年代のこと。
小倉藩主・細川忠興が朝鮮から陶工・尊楷(そんかい)を招き、福岡県の上野(あがの)の地に開窯したのがその始まりとされています。
江戸時代には茶人に好まれ、遠州七窯の一つにも数えられましたが、明治期には一度衰退してしまいました。
しかしその後復興し、現在では指定伝統的工芸品の指定を受け、今でも進化を続けています。

柔らかく、ひとに寄り添う焼き物

高温で焼かれる陶器でありながら、やわらかな土味と、控えめで優しい色合い——上野焼の特徴は、その多彩な表現と品の良さです。
茶器をルーツに持つ上野焼は、陶器なのに薄く軽量。
多彩でありながら派手ではない、優しく日常に溶けこむ色合いと手触りが毎日の料理を引き立てます。
繊細な釉薬のグラデーションや表情のゆらぎには、ひとつとして同じものがありません。
お気に入りの一皿を見つけ、使うことで、自然と愛着が育っていくでしょう。

暮らしの中にある「用の美」

茶の席での格式高い存在から、日常の食卓へ。
時代とともに、上野焼は静かにかたちを変えながらも、「用いることに宿る美しさ」を大切にしてきました。
気取らず、それでいて品のある雰囲気は、現代の暮らしのなかにもすっと馴染みます。
器を選ぶとき、つい手が伸びてしまう——そんな存在になるのも、この焼き物ならではの魅力です。

歴史ある器と、これからの時間をともに

長い時間を経て今に続く上野焼。
歴史を知って使うことで、手に取る感覚や、食卓での時間が少しだけ豊かになるように感じます。贈り物としても、自分の暮らしのためにも。
大切に選んだ器が、これからの時間にそっと寄り添ってくれる——そんな出会い方ができたら嬉しいものです。

この記事を書いた人

柴山甲一
酒器の案内人

バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人

柴山典子
器人(うつわびと)

静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。

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