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大切な人への特別な贈り物。喜ばれる器の選び方

“贈る”という時間が、暮らしの風景をやさしく変えていく

贈り物を選ぶとき、「なにを贈ろうか」ではなく「どんな時間を贈れるだろうか」と考えることがあります。
器には、その時間の質ごと手渡すような力があると思います。
たとえば、深い飴釉の湯呑み。
冬の朝、そこに注がれる湯気の立つお茶が、静かに体をあたためてくれるような器です。
使うたびに手のひらに落ち着きが宿るような、そんな器がひとつあると、暮らしは少しだけ穏やかに整っていきます。
器には、ただ食卓を彩るだけでなく、その人の一部になっていくような存在感があります。

暮らしの風景を想像しながら

器を贈るときには、相手の暮らしの一場面をそっと想像してみます。
朝のコーヒーが日課の人には、厚みのあるマグカップを。
読書好きな人には、ちょっとしたお菓子が映える小皿を。
休日の昼下がりを大切にしている人には、ほんの少し背筋が伸びるようなカップ&ソーサーを。
贈る器が、誰かの「好きな時間」にそっと寄り添うものになるといいなと思います。

好きな色、好きな形、好きな手触り

器を選ぶとき、目に入る色やフォルムの美しさはもちろん、指に触れたときの質感や重さも気になります。
ざらっとした土の風合いが落ち着くときもあれば、きめの細かい陶器のなめらかさに癒されることもあります。
「これ、好きかも」と感じる瞬間には、その人の気分やコンディションも表れている気がします。
だからこそ、贈り物に器を選ぶというのは、見た目だけでなく、手に取る人の感覚にまで想いを寄せる行為なのかもしれません。

想いが重なって、風景になっていく

以前、あるご年配の方に器をお贈りしたときのこと。
何年か後にその方のご自宅に伺ったとき、その器が食器棚の一番手に取りやすい場所に置かれていました。
「これ、つい手が伸びちゃうの。重さも大きさもちょうどいいんだよね」
そう笑ってくれたその言葉が、今でも忘れられません。
器って、不思議なもので、贈ったあとからその人の“風景”になっていくものだと感じます。
贈り物は、渡した瞬間だけで終わらない。
むしろ、その後の時間の中で、ゆっくり意味を深めていくものなのかもしれません。
手渡すのは器でも、贈っているのは、誰かを思う気持ちと、それが育っていく時間です。
だからこそ、丁寧に選んだ器は、特別な日の贈り物にも、ささやかな“ありがとう”にも、静かに力を発揮してくれます。

この記事を書いた人

柴山甲一
酒器の案内人

バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人

柴山典子
器人(うつわびと)

静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。

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