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手にした瞬間に伝わる静けさ。上野焼、福岡の器

土地が生む、器のやわらかさ

福岡県田川郡福智町。
山あいの静かな土地に根づいた上野焼(あがのやき)は、手に取ったときのやわらかさと、にじむような色合いが特徴です。
華やかさではなく、しずかに気配をまとったような佇まい。
それは、この土地の自然や空気、人の手のうごきが、器そのものに静けさを映しているようにも感じられます。

長く寄り添う、道具の美しさ

上野焼は、高温で焼かれた陶器でありながら、どこかやさしい印象をまとっています。
使い込むほどに、手になじみ、食卓に自然と馴染んでいく器。
器のかたちや釉薬の表情は一つひとつ異なり、同じものがふたつとない——その個性もまた、日々使う楽しみのひとつです。
「使うことで完成していく」という感覚がある器です。

今の暮らしに、そっと添う

もともとは茶の湯のための器として発展してきた上野焼ですが、現代の暮らしにもすっと馴染んでくれる柔軟さがあります。
フォルムは伝統を受け継ぎながらも、作家によって表情を変え、マグカップや小鉢など、日常使いのアイテムとしても親しまれています。
気取らず、けれど美しい——そんな器が一つあるだけで、日々の景色が少し変わって見えてきます。

土と人の記憶を手に取る

器を選ぶとき、その土地の空気や、作る人の想いにふれることができたら、それはもう“もの”という枠を超えた出会いになるのかもしれません。
福岡の上野焼には、静かな山の時間と、手を動かす人のぬくもりが宿っています。
手にした瞬間に、その空気がすっと伝わってくる。
それがこの器の、何よりの魅力だと感じています。

この記事を書いた人

柴山甲一
酒器の案内人

バーテンダーとして様々な酒や人生と出会い、人生の数だけ酒の楽しみ方があることを知る。「酒の楽しみ方=人生」と捉える目線から、一人じっくり酒を楽しめる器や、誰かとの語らいを楽しむ器など、人に寄り添い人に合わせた“人生を変える酒器選び”をナビゲートする。飲食店などへも、料理人自身が選び切れない器の中から「酒と会話と料理と」を引き立てる器を提供し、その強いこだわりには信頼と定評を得ている。

この記事を書いた人

柴山典子
器人(うつわびと)

静岡の陶器屋の家に生まれ、幼少の頃より家庭用・飲食店用など様々な器に触れながら育つ、器屋生まれ器屋育ちつまり“生粋の器人”。“日本”が誇るもの文化やそれが反映された道具には深い敬意をもち、感動と関心で心の拍手が止まらない。未知に対して興味津々、驚きと笑いを一緒に分かち合えたら嬉しく人との繋がりに日々感謝。「和モノ」のみならずインテリア物は大好物。

この記事でふれた「ゆるやかな丁寧さ」に寄り添う器たち

——使うほどに心がほどける、“日常の相棒”をご紹介します。